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USB PD(パワーデリバリー)とバッテリー駆動デバイスの充電について

Written by Product Owners

Last published at: April 12th, 2024

当初マウスやキーボードを接続するために誕生した USB、すなわちユニバーサル・シリアル・バスは、その「ユニバーサル」という名の通り、周辺機器を接続するため以上のはるかな進化を遂げてきました。USB ポートを介して充電するタイプの電力消費量の多いデバイスが普及するのに伴い、消費者である私たちは USB ポートが「ユニバーサルな」充電ポートとしても機能することを期待しています。

しかし実際には、それほどシンプルなことではありません。

 

2023 年時点の充電標準規格

USB-C PD 3.0 SPR(標準電力域 100Wまで対応)

2023年 5月現在の市場で一般的な PD リビジョン 3.0 までの技術仕様では、PD 規格に準拠した USB-C コネクタは最大 100W(しかし IEC 規制による現実の最大値は通常 96W ~ 98W)までの充電が可能です。しかし、充電される側(シンク Sink:ノート PC やタブレットなど)と、充電機器(ソース Source:チャージャーや電源アダプタなど)間で「実際の充電レートを決める」ために行う「ネゴシエーション(交渉)」用プロトコルは、複雑で理解しにくいものです。

PD 機器が販売され始めた(およそ2015 年から数年)の USB-C PD 機器の実装は信頼性に欠ける可能性あるいは傾向があり、多くの PC メーカーは PD 標準規格に基づいた他社製のドッキングステーションや充電アダプタ、チャージャーなどをブロックしていました。PD のような標準技術ではなく、依然として専用の充電ポートにメーカー独自の実装をしていたのです。しかし 2020 年ごろ以降はこのようなことはほぼなくなり、ほとんどの USB-C ポートを搭載したホストデバイス(ノート PC、タブレットなど)は PD 充電規格に準拠したドッキングステーション、充電アダプタ、充電器などからの充電ができるようになっています。

しかしそれでもまだ、他社製品との組み合わせにおいて、互換性の問題について Plugable サポートチームがユーザーの方々から報告を受けることがあります。

一般的に USB-C ポートにおける PD 機能は、『可変』の電圧と電流の充電率(V x A = W、つまり最終的には充電ワット数)に対応可能な、いわゆる「スマート充電」ができる規格です。USB-C ポートにおける規定の電圧は 5V で、ホストデバイスと充電器の実装に応じて 9V、12V、15V、20V に調整可能です。一方電流は最大 5A までで、結果として最大 20V x 5A = 100W までの充電レートに動的に対応できます。

ただし、ドッキングステーションや充電アダプタに搭載された USB-C ポートのすべてがこの 100W までの PD 充電レートに対応しているわけではありません。USB 3.0 プロトコルまでに対応している普通の USB-C ポートは、USB 3.0 の規格である 900mAまでの電力しか提供しないことがあります。一部の「(PC などに比べれば低電力しか消費しない)周辺機器(スマートフォンなど)の充電用に、5V1.5A(7.5W)や 5V3A(15W)までの電力レートに対応しているポートもあります。一方で、100W までに対応した USB-C ポートを搭載したデバイスもある、という混沌とした状況です。

同様に、全ての USB-C ホストデバイス(ノート PC やタブレットなど)が USB-C から充電できるわけではありません。モデルによっては PC などに同梱されてくる、専用の AC 電源アダプタが必須な場合もあります。例えば 135W、180W など電力消費量の多い、ハイエンドのゲーミングノート PC の一部などがこれに該当します。さらに、ノート PC に複数の USB-C ポートがある場合は、そのうち 1 つだけが充電に対応していることもあります。

 

USB-C の PD 実装

USB-C による PD の実装は、物理的には USB-C コネクタとケーブル内にある 30 本の信号線のうち、CC1 と CC2 という 2 本の(専用の)信号線を使用して実装されています。

非常に簡易的に説明すると、PD 充電では以下手順で充電レートを決定したのちに、実際の充電を開始します。

  1. コネクタおよびケーブル自体の2つの信号ラインに設定された値(抵抗値と、その後の電圧)の読取り
  2. PD ソース が対応可能な電力を通知し、PD シンク が必要な電力を要求するという双方向データ通信による交渉(ネゴシエーション)
  3. 交渉が成立し、レートが確立

一例をあげると、ノート PC 側が 65W 電力が必要な場合、通常は「20V x 3.25A」の電力が必要とされます。この PC に PD ソース(充電器など)が接続されると、上記のような交渉イベントが発生します。もしもソース側が必要より低い電力しか提供できない場合、例えば 60W までの充電器の場合は、それ以下のうち最も高速で一般的な充電レート、20V3A が選択され、これで交渉を成立させようとします。普通は交渉が成立し、65W レートよりは多少遅くなるものの、充電が開始されます。

上記と同じノート PC に、100W(96W ~ 98W)まで対応した充電器を接続するとどうなるでしょうか。ついノート PC に何か悪影響があると考えてしまいがちですが、そのようなことはありません。USB-C PD は両者の間で通信し、ノート PC が 65W での充電を要求していることを理解して、この最速のレート値の範囲内で充電が行われます。ここで注目すべきは、充電器(ソース)が充電値を決定づけるのではなく、PC(シンク)側が要求する値で電力が供給される、という点です。このため PC が要求する電圧より高い電流を充電器側が勝手に流すことは起こり得ず、PC にダメージを与えることはありません。USB-C の既定電圧は 5V に設定されており、シンク側がそれを要求して交渉が正しく成立しない限り、より高い電圧(9V、12V、15V、20V)は使用されない仕組みになっています。

次に、135W など、PD 3.0 がサポートしている 100W 以上の電力を必要とするノート PC の場合を見てみましょう。もしもそのノート PC が、USB-C ポート経由でのホスト充電に対応しているのであれば、135W 対応の専用ポートや AC アダプタを使うよりは遅くなるものの、可能な限り最速充電をするべく交渉が行われます。このとき、PC の消費電力に応じて、供給される電力がほぼ同じであれば「使った分だけ供給されて充電値はほぼ同じ状態を維持する」か、もしそれより少なければ「充電値は少しずつ減っていく」状態となります。後者のようになる理由は、このような環境で非常に負荷の高いアプリケーションを実行し CPU や GPU に大きな負荷がかかっている際は、接続された PD 充電器からだけでなく PC のバッテリーからも同時に電力が消費されるためです。最終的にはバッテリー残量が不足し、高負荷のアプリケーションは期待通りに実行できなくなる可能性があります。逆に、スリープモードやオフの間はバッテリー残量が上がることもあります。

 

USB-C PD 3.1 EPR(拡張電力域、240Wまで対応)

新しい USB PD リビジョン 3.1 の技術仕様では、USB-C 経由で従来の 100W から大幅に増加した、240W までの電力を供給できるようになりました。 これに伴い、100W までの範囲の PD を SPR(標準電力域  Standard Power Range)、100W ~ 240W の範囲を EPR(拡張電力域 Extended Power Range)と呼びます。

EPR の詳細については、Plugable 社の下記ブログ記事を参照してください。

240W まで充電対応できる USB EPR(拡張電力域)とは

 

Thunderbolt 3 / Thunderbolt 4 / USB4 との関係

Thunderbolt 3、Thunderbolt 4、USB4 は物理的なインターフェースとして USB-C を採用しており、上記で説明した PD 機能を利用します。ただし、どれだけの電力で充電できるかは、そのポートによって異なります。例えば、その USB-C ポートが Thunderbolt 3 または 4 対応だからと言って、必ずそのポートからホストが充電できるとは限りません。

 

Qualcomm Quick Charge(QC) 4 / 4+ / 5 との関係

Qualcomm QC 4、 4+、5 は Qualcomm 社製のチップセットを使用したデバイスに採用されているメーカー独自の充電規格の 1 つです。USB-C および PD と相互互換性がありますが、もしも何らかの理由で QC が使用できない場合は、PD 規格を使用します。(現在 Plugable 社は QC 対応製品を提供していません。)

 

PD 3.0 が一般的になる前の充電規格については、こちらの記事(英語)を参照してください。